【バリデーション】認知症介護のコミュニケーション方法を家庭実践!
認知症高齢者の置かれている状況は、様々な課題があります。
理由として、認知症高齢者の心や内面を受け止め、世界観や感情を理解・共感するのは簡単ではないからです。
そんな中、介護業界での『バリデーション』は、認知症高齢者とコミュニケーションをとるための方法のひとつとして、具体的+体系的に提示していると言われています。
この記事では、バリデーションの目的や基本についてと、実践方法や家庭で実践する際の配慮についてお伝えします。
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介護現場における【バリデーション】とは
- バリデーションの目的
- バリデーションの効果
国際バリデーショントレーニング協会(VTI)による「バリデーション・ワーカーコース」において、下記のように定義されています。
“バリデーションとは、認知症高齢者の感情を受け容れることであり、道路をわたって認知症の人の側につくことである。そして、認知症高齢者の尊厳を取り戻す手助けをするひとつの方法である”
日本バリデーション研究会「バリデーションワーカーコース・テキスト」P13、2003年 ※注
バリデーションの元々の意味は「確認する」「強化する」で、「認知症高齢者の感情を認め、無条件で承認する」ということを意味しています。
参考:ナオミ・フェイル「バリデーション」筒井書房、P5、2001年 ※注
バリデーションの創始者は、アメリカ人ソーシャルワーカーのナオミ・フェイル氏(Naomi Feil)です。
フェイル氏は、「認知症高齢者の人生における未解決問題を解決すれば、いわゆる問題行動(周辺症状)は解決に導かれる」という仮説を立てました。
問題行動と言われている行動には、何らかの理由があり未解決な課題を終末期において、どうにか解決しようとしている、必死にもがいている状態と理解できます。
すると、援助者は問題行動には見えず、認知症高齢者の悲しみや苦しみを少しでも和らげ取り除きたい・共感を持って関わりたいという気持ちになるとフェイル氏は考えました。
参考:ナオミ・フェイル「バリデーション」筒井書房P89、2001年 ※注
バリデーションの目的
バリデーションは、認知症高齢者の尊厳を回復し、周囲からの孤立防止を目的とする方法論です。
日本バリデーション研究会「バリデーション資料集」では、以下の通りです。
“利用者と援助者が親密になり、信頼関係を築き、感情やニーズを表出させることであり、その結果、利用者の人生での未解決問題を解決する手助けをすることである”
日本バリデーション研究会「バリデーション資料集」P7、2003年 ※注1
認知症高齢者は、自分の想いや行動・言いたいことを言葉で表現することが難しく、周囲や社会から孤立することがあります。
認知症高齢者の3つに代表される「元気な頃の自分自身」「住み慣れた生活環境」「家族」を、徐々に喪失することで、常に心にぽっかり穴のあいた喪失感を抱えていると言えるでしょう。
認知症高齢者の「喪失感を共感・受容してくれる存在」、バリデーションが目指す「利用者中心のケア」が必要なのです。
バリデーションの効果
効果の対象 | 認知症高齢者 | 認知症家族や介護者 |
効果 |
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|
バリデーションの効果として、上記が挙げられます。
認知症高齢者は、自分の喪失感を共感し受容してくれることで、大切にされていると感じられ不安が減少するようです。
バリデーションは、認知症の「感情」に着目しました。
認知症の症状が進行しても、感情は最後まで持っていると言われています。
喜びや嬉しさの「ポジティブ感情」の他に、悲しみや怒り、恐怖といった「ネガティブ感情」にも個々に理由があります。
バリデーションは、ポジティブ感情だけではなく、ネガティブ感情も表出することを促しています。
また、バリデーションの効果は認知症高齢者だけではなく、取り巻く家族や介護者へも広がります。
認知症に限らず、人は周囲との関わりの中で喜怒哀楽を感じます。
この喜怒哀楽を表出して周囲から受け止めてもらえると、喜びや嬉しさは倍増し、悲しみは和らいでいくでしょう。
認知症家族や介護に関わる人は、時として精神的にも肉体的にもフラストレーションが高まることがあります。
このバリデーションの方法論が浸透することで、プラスの効果が期待できると考えられるのです。
「※注」二次引用:「認知症高齢者ケアにおけるバリデーション技法に関する実践的研究」都村 尚子( CiNii ID: 9000017291669 )/三田村 知子/橋野 建史
バリデーション|基本的な態度
- 傾聴する
- 共感する
- 嘘をつかない・ごまかさない
- 受容する(評価しない)
- 歩調を合わせる(誘導しない)
フェイル氏は、後期高齢者で検討意識障害を持つ認知症の事例から、行動の意味を考えある特定の精神・心理的欲求があることに焦点をあて、基本的視点を導き出したと言われています。
【バリデーションのゴール:11の欲求】 ※こちらをクリックすると詳細が見えます
- ①安らかな死を迎えるためにまだやり終えていないことを解決する欲求
- ②平安に生きる欲求
- ③視力、聴力、身体的自由、記憶力が低下しても、平静な気持ちを回復する欲求
- ④我慢できない現実を理解する欲求、なじみのある人間関係を持て、居心地がよいと感じられる場所を見つける欲求
- ⑤意識、地位、アイデンティティー、よび自尊心への欲求
- ⑥役に立ち、有益でありたい欲求
- ⑦傾聴、尊敬されたい欲求
- ⑧愛され、一緒にいたい欲求:人間関係欲求
- ⑨動けなくされたり、拘束されたりすることなく、守られ、安全で安心していられる欲求
- ⑩感覚刺激欲求:触覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚そして性的欲求
- ⑪苦痛や不快を軽減した欲求
上記11個の欲求のどれか、または複数の必要性をみい出し欲求を充足させることに、バリデーションのゴールがあると考えられています。
参考:都村尚子『バリデーション 認知症高齢者とのコミュニケーション』介護労働安定センター、P38-39、2008年
つづいてバリデーションの基本的な態度・関わり方について簡単にお伝えします。
傾聴する
傾聴はただ相づちを打つという姿勢ではありません。
五感をフル活用して真摯な姿勢で「耳」「目」「心」を傾けましょう。
例えば、「部屋に虫がいる」と言った場合、「何色の虫ですか?」「虫は部屋のどこにいますか?」と目に見えない相手の世界を共有させてもらいます。
共感する
自分以外の第三者の気持ちや感情を、まるで自分事として感じ考え理解し、同調・共有することです。
姿勢や表情、呼吸のペースなどをよく観察して真似をします。
認知症高齢者と感情や所作などを合わせることが同調・共有につながり、スムーズに進めていけるでしょう。
嘘をつかない・ごまかさない
介護の現場では、「帰りたい」「居たくない」と言われることがあります。
ここで「ちょっと…おやつでも食べていきましょう」と相手の気持ちを無視してごまかす言葉がけは、認知症高齢者の気持ちをないがしろにする行為です。
嘘やごまかし・その場しのぎの対応では、認知症高齢者との信頼関係は築けません。
例えば、「帰りたい」と訴える認知症高齢者に「早く帰りたいのですね」「どなたか待っているのですか?」など、共感や具体的な質問で何を主訴としているのか向き合いましょう。
受容する(評価しない)
受け容れ取りいれることを受容すると言います。
認知症高齢者の言動や行動には、理由があると考えられています。
後述しますが、バリデーションのテクニックである「キャリブレーション」や「ミラーリング」を使って認知症高齢者の気持ちを、ありのまま受容します。
歩調を合わせる(誘導しない)
例えば、食事の時間。
食べたくないときに、無理に食事を促してしまうことはありませんか?
認知症高齢者の行動や呼吸のペースを合わせるよう心掛けましょう。
バリデーションの実践方法|言語的テクニック
- オープンクエスチョン
- リフレージング(反復)
- レミニシング
ここでは、バリデーション実践方法の代表的な言語的テクニックについて簡単にお伝えします。
オープンクエスチョン
開かれた質問と言われているオープンクエスチョンを取り入れます。
「はい」「いいえ」で片付いてしまう質問ではなく、
「いつ」「どこで」「何を」「誰が」「どのように」を聞き、認知症高齢者に自分の言葉で自由に回答できる質問です。
注意点として、「なぜ」という抽象的な質問は、難易度が高く混乱を招きやすいので、使わないようにしましょう。
リフレージング(反復)
リフレージングとは、認知症の人が発した言葉の中で、最も重要だと思われる言葉をそのまま繰り返すというものです。
見極めたキーワード(言葉)をリフレージング(反復)します。
ポイントとして、リフレージングする際、相手の声の大きさやトーン・話す速さなどを一致させましょう。
レミニシング
レミニシングとは、昔話・回想法のことです。
認知症高齢者に、過去の思い出話を語ってもらいます。
認知症の特徴として、新しい知識よりも過去の経験などを覚えていることがあります。
思い出話や過去の経験談には、認知症高齢者の「価値観」や心に引っ掛かっている「未解決の問題」に関するエピソードが込められている場合もあります。
また、過去の思い出話をすることで、そのとき感じた想いや感情を表出することにもつながるでしょう。
バリデーションの実践方法|非言語的テクニック
- ミラーリング
- アイコンタクト
- タッチング
次に、バリデーション実践方法の代表的な非言語的テクニックについて簡単にお伝えします。
ミラーリング
心理手法でもお馴染みのミラーリング。
認知症高齢者の真正面に向き合いミラー(鏡)のように相手の動作や感情を真似します。
相手と同じ姿勢・表情などの動作や感情を分かち合います。
注意点として、認知症初期段階の人を相手にミラーリングを行うと自分のことを馬鹿にされていると思われる可能性があるため、活用は避けましょう。
アイコンタクト
認知症高齢者の真正面に座り、キャリブレーション(感情を観察し、一致させる)を続けます。
わたしは「あなたを受け止めます」というメッセージを送りながら、認知症高齢者の目をしっかり見つめましょう。
タッチング
- 母のタッチング:手のひらで頬をなでるのを繰り返す
- 父のタッチング:頭頂部から後頭部を丁寧になでおろす
- 子のタッチング:首の後ろを指先でなでる
- 友のタッチング:肩を包み込むようにし、上腕部へなでおろす
バリデーションには、アンカードタッチ(目的を持って認知症の方に触れる)という方法があります。
やり取りの内容に応じて、いくつかのタッチ方法を使い分けます。
【バリデーションのテクニック一覧】 ※こちらをクリックすると詳細が見えます
- ①センタリング(誠信の統一・集中)
- ②(高齢者の)好きな感覚を用いる
- ③オープンクエスチョン(開かれた質問をする)
- ④フレージング(反復)
- ⑤極端な表現(最悪、最善の事態を想像させる)
- ⑥反対のことを想像する
- ⑦レミニシング(思い出話をする)
- ⑧アイコンタクト
- ⑨曖昧な表現
- ⑩はっきりとした低い、優しい声で話す
- ⑪タッチング(触れる)
- ⑫キャリブレーション(感情を観察し、一致させる)
- ⑬音楽を使う
- ⑭ミラーリング(相手の動きや表情に合わせる)
- ⑮満たされていない人間的欲求と行動を結びつける
参考:都村尚子『バリデーション 認知症高齢者とコミュニケーション』介護労働安定センター P23 2008年
家庭で実践|バリデーショを行う際の留意点
- 相手に寄り添う時間を意識してつくる
- 心を空っぽにする
ここまでで、「共感」や「受容」の重要性は理解されても、家庭で24時間365日共感や受容を意識して話を聞くなんて…と感じる人もいるでしょう。
そこで、バリデーションを家庭で実践する際の留意点を簡単にお伝えします。
※バリデーションはアルツハイマー型認知症およびその類似症状の人のコミュニケーション法なので、その他の認知症の場合は、必ず専門医のアドバイスを受けることをおすすめします。
相手に寄り添う時間を意識してつくる
はじめのうちは1分〜5分、長くても10分程度で構わないので、数分間は相手の心に寄り添う時間を作りましょう。
個人差はありますが、基本認知症高齢者は孤独を感じています。
孤独を経験した人はわかると思いますが、何とも言えない寂しさ・悲しさに陥ります。
孤独を感じているときに、数分という短い時間でも自分のために寄り添ってくれる存在は、光となり希望となるでしょう。
心を空っぽにする
認知症高齢者が自分の親の場合、聴き手である子どもは悲しく感じたり、いら立ちを覚えることがあります。
子どもは、過去のしっかりしていた親の姿を覚えています。
まるで赤ちゃんのような親の姿に、情けなく思ったり、昔のようにやり取りや意思疎通ができないもどかしさから、心を乱し非難してしまうようです。
そこで、上記の感情を直視せず置いておきます。
自分のセンター(中心)を意識してスペースを作ります。(心理学のセンタリング技法)
呼吸に集中して気持ちを落ち着けましょう。
空っぽになったスペースに、相手の感情を入れていきます。
人は相手に共感し続けると、聴き手側が苦しくなるので必ず心の切り替え(オン・オフ)を忘れずに。
バリデーション療法
バリデーション療法とは、アルツハイマー型認知症およびその類似症状の人のコミュニケーション方法です。
認知症高齢者に対して敬意を持ち共感・受容し、感情や行動をありのまま受け止めることで認知症高齢者が自尊心を回復することを期待されています。
バリデーション療法の方法やテクニックは、前述した通りです。
バリデーション協会|バリデーション・ワーカー
バリデーション・ワーカーは国家資格や臨床心理士のような日本の学会認定資格ではなく、バリデーション国際協会が認定する認定資格です。
約1年半の研修を経て、一定の質のレベルに達すると資格が発行される免許制で、現在は、資格取得後のフォローアップセミナーは年に数回開催されているようです。
現在、バリデーションは現場施設などでポジションを確立する段階に至っていません。
今後の課題としては、有効なバリデーションの技術と知識を持った人材の育成と、その人材を活かせる環境の整備です。
日本バリデーション協会についてはこちら↓
一般社団法人 公認日本バリデーション協会
もうひとつの認知症ケア【ユマニチュード】とは
- ユマニチュードとは
- ユマニチュード|4つの基本柱
共感して接するバリデーションに対して、人間らしさの追求と言われている「ユマニチュード」について、簡単にお伝えします。
ユマニチュードとは
フランス発祥の「ユマニチュード」とは、新しい認知症ケアの手法です。
ユマニチュードは「人間らしさ」という意味を持ちます。
魔法のケア、魔法のよう…と言われ書籍やマスメディアで紹介され、お聞きになった人もいるのではないでしょうか?
フランスの医療機関や施設を中心に導入され、現在ではドイツやカナダへも普及し、日本へは2011年ころより導入されました。
ユマニチュード|4つの基本柱
- 見る
- 話しかける
- 触れる
- 立つ
4つの基本柱として、「見る」「話しかける」「触れる」「立つ」があり、150以上の技術から成り立ちます。
見る
相手と同目線に立ち、20㎝の近距離で優しい親しみを込めた視線を送ります。
認知症高齢者は、人よりも視野が狭いので、介護者は認知症の人の視界に入り存在を認識してもらうことが重要です。
話しかける
たとえ会話が成立しなくても、会話が一方通行になっても積極的にポジティブな言葉で話しかけます。
ケアの際も、黙々と作業するのではなく「今から○○しますね」「とても気持ち良いですね」など、語りかけるようにゆっくりと言葉がけをします。
相手が無反応だとしても、介護者は語りかけることで、心の通ったケアにつながるのです。
触れる
人とのかかわりの中で、親密になるうえでもボディタッチは効果的のようです。
昔から、例えばお腹が痛いときに、お腹にそっと手を当てる行為を「手当て」というように、人との触れ合い・ボディタッチは存在しました。
注意点として、無言で相手に触れるのは、不信感を与え逆効果です。
必ず、そっと声をかけながら優しく触れることが大切です。
立つ
ユマニチュードは、最低でも1日20分は立つことを目標にしています。
ユマニチュードの考案者である、イヴ・ジネスト氏曰く、「自分の足で立つことで人の尊厳を自覚する」と語っています。
立つことで、身体機能(筋力の維持向上・骨粗鬆症の防止)を保つ効果が期待されます。
参考:ユマニチュードを学ぶ
バリデーションを実践して心を通わせる介護・コミュニケーションを!
認知症高齢者とのコミュニケーションをとるための方法として、バリデーションについてお伝えしました。
「傾聴」「共感」「受容」する心・姿勢を大切にしているバリデーション。
バリデーションの方法やテクニックを紹介しましたが、日々の認知症介護・生活の中で完璧に取り入れることは難しいでしょう。
また、認知症と言っても症状や進行状態は個人差がありますので、人によっては効果が得られない…ということもあります。
それでも、自分の想いや行動・言いたいことを言葉で表現することが難しく、周囲や社会から孤立してしまう認知症高齢者にとって、人と心を通わせるためには大切な手法になると考えます。
毎日実践することは難しくても、この記事に書かれている内容を少しでも記憶し心に留めていただければ、認知症高齢者介護の未来が明るくなると信じています。
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